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   理事長 齋藤 益子
   
「性と健康」の巻頭言より  2009年 夏
 数日前、知人から訃報の知らせが届いた。家族に高校時代から摂食障害で苦しんでいる女性がおり、周期的に過食と拒食を繰り返していた。過食のときは体重が著しく増加し、性的欲求が強く、欲求が満たされないと暴れることもしばしばであり、一方、拒食のときには体重は減少し、無口になって引きこもり、時には自傷行為もあり「死にたい」という言葉に家族は片時も目が離せない状態であったそうだ。摂食障害は身体像の歪みがあり、痩せていても自分は太っていると認識してさらに痩せようと努力し、心身の破綻をきたし根治は困難とされている。

 人が死を選ぶのは、自分がこの世に存在する意味を見失い、自分を肯定する自尊感情が低下して生きることに価値が見出せなくなった時であろう。すべてが虚しく嫌になり、生きていることは苦痛でしかなくなった時、自分で自分の命を絶つのであろうか。

 6月1日に発表された警察庁の報告によると、昨年の自殺者は32,552人で、その動機は、健康障害(46%)、経済・生活の心配(24%)、家庭のトラブル(9%)、職場関係(6%)、男女問題(2%)の順で、生きていくために心の健康が如何に大切であるかが解る。

 性に関する諸問題が社会問題になっているが、性の健康のためには「心の健康―しなやかな心」をもつことが大切だと思う。心のしなやかさは、日常の豊かな人間関係や感性を磨くことからから培われる。私たちは日常的に他人の心を動かす様な言葉、人間関係を豊かにする言葉をどれくらい交わしているだろうか。相手との関りを温かく包み込むような会話、その人と話すことで元気になれる関り、相手の痛みや心の重荷を軽くする関りをどの位しているだろうか。相手が心地よくなり、自尊感情を高めることが出来るような愛のストローク、言葉かけを相手にも自分にもかけてみたらどうだろう。

 挫折や苦難の時にそれを乗り越え新たな道を切り開いていく力は、感性と忍耐そして周りの温かい人間関係から生まれてくる。そしてそこから、しなやかな心が育ってくると思う。心のしなやかさは自己肯定し前向きに生きていく逞しさを伴っている。

 マーガレット・ミッチェルは小説「風と共に去りぬ」の最後の場面で、主人公スカーレット・オハラに「みんな明日タラで考えることにしよう。明日はまた明日の陽が照るのだ」と語らせている。過去を悔やまず、明日に向かって生きる、自分の選択した生き方を肯定してはじめて人は次の一歩が踏み出せるものである。

 現在は、様々なストレスや複雑な人間関係から人と人の信頼関係が築きにくい時代である。温かい心の交流を通して、健康で逞しくしなやかな心をもち自分も相手も大切にできる子どもたちを育てていきたいものだ。それが活き活きと生きる力を育むことになると信じている。


Fra Filippo Lippi ( 1406-69)
タルクィニアの聖母
(1437)
   日本母子看護学会
理事長 齋藤 益子
 
   
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